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私たちについて社長インタビュー森林からの恵み“バイオマス”は
地域再生のエネルギー
バイオマス・フューエル株式会社 代表取締役社長 黒田栄作

プロフィール
黒田栄作。1981年、群馬県邑楽郡千代田町生まれ。高校卒業後、祖父の経営する造園会社に。そこで廃材を利用した再生可能エネルギーに関わる。2008年、バイオマス・フューエル株式会社設立。翌年に海外拠点HUMAN&ECO ENERGY RESOURCESDEV'T(M)SDN BHD (マレーシア)設立。その後も精力的に国内外で事業所を展開している。

日本では再生可能エネルギーといえば太陽光、風力が注目されてきたが、脱炭素社会の実現に向けて森林未利用材や廃棄する木材を利用する木質バイオマス発電への関心が高まっている。廃木を利用した原料であることや伐採と合わせた植林、それゆえ可能な燃料の安定供給、生産地域の活性化など他の再生可能エネルギーに比べ優位な違いを生み出している。
そのバイオマス燃料生産事業に2008年から取りくむバイオマス・フューエル株式会社。他の再エネ事業者が2013年のFIT(固定買取価格制度)施行後の参入だったのに対し、同社は2008年と早い時期に創業している。以来、森林と地域と共生する方法を模索しつつ、ベンチャーならではの独創性で他の再エネ企業とは一線を画す事業を続けている。
そんな彼らの創業秘話、そしてバイオマス燃料の可能性と新技術を伴った未来を、同社代表・黒田栄作氏に聞いた。

バイオマス事業は造園から始まった

母方の実家はずっと造園の家系です。私が生まれ育った家も目の前には植木畑が広がり、私が遊ぶのも木が相手で、高校を卒業して当たり前のように造園の仕事に就きました。
ちょうどその頃2001年に法律が変わり、野焼きが禁止されてしまいます。それまで植木屋さんや土木業者さんが自分の畑の一角で剪定した枝など廃材を燃やしていたのですが、それができなくなってしまった。山育ちの方ならわかると思うのですが、剪定した枝や草木はけっこうな量になります。ですから造園業者さんや土木業者さんたちもその処理に困っていました。そこで造園を営んでいた祖父が樹木のリサイクル事業を起こし、祖父はその事業運営に私を指名しました。当時、私が20歳の時。これがバイオマス事業と関わることになったきっかけです。

アメリカのホテルで書き殴った創業への思い

2007年、アメリカに視察に行き、多くのリサイクル場を見てまわりました。フロリダ州のリサイクル場には、隣接してバイオマス発電所がありました。その頃、日本では樹木のリサイクルといえば有機肥料ぐらいしかなかった。それがアメリカでは巨大な施設で電気を生み出していたのです。森の廃材が電気になるんだ、と衝撃を受けたのを覚えています。その夜、泊まっていたホテルで紙とペンを手に夢中で頭に浮かぶアイディアを書き連ねていました。アメリカの再エネ施設の巨大さに圧倒され、興奮していたんでしょうね。その中にバイオマス燃料の会社を作るというのもあって、視察に同行してくれた機械メーカーの方と社名をあれこれ考えたのを覚えています。

再エネ唯一の安定電源であるバイオマス

バイオマスエネルギー最大の利点は、燃料の安定供給です。他の太陽光、風力といった発電は天候に左右されやすいのに対し、バイオマス燃料の供給は天候による影響が少なく、また発電方法は従来の火力発電と同様にバイオマス燃料を投入できれば継続的な発電できる再生可能エネルギーの中で、唯一バイオマス発電はベース電源となり得る安定した電源です。

2050カーボンオフセットの切り札

世界中で再生可能エネルギー事業が発展している理由は温室効果ガス(GH G)削減のためです。バイオマス燃料は材料が木ですので、植物が吸い込んだ二酸化炭素と、燃料として排出される二酸化炭素が相殺されるカーボンオフセットという思想の再エネです。また、バイオマス燃料を、今まで使っていた石炭火力発電設備で活用することで、資金効率よくGHG排出削減に貢献することができます。2050年のカーボンニュートラル達成のためには欠かせない分野ですし、今後の需要もますます高まっていくと思います。

予想をはるかに上回るバイオマス需要

現在、国内で利用されるエネルギー比率の中で、バイオマスの割合を10年後には倍近くまで引き上げるという方針が政府から示されています。今以上にバイオマス発電の需要は予想されるので、そのためにもバイオマス燃料の安定供給は不可欠なものです。

山は手を入れて循環させることで活きる

代々私たちは山林と関わってきました。燃料として木を使いますが、それ以上に森の環境を大切に考えています。バイオマス燃料に使う木材の一つに間伐材や廃材があります例えば荒れた山林では朽ちた木が倒れ、林業の担い手が少なくなってしまった現在では、そうした山の手入れができていない場所が多くあります。私の地元の群馬県や隣県の山でも、そういった山があると思います。未整備が原因での山火事や水害による土砂崩れ、雪崩被害などが発してしまう可能性もある中で、反対に、林業に携わる地元の小規模な製材所はどんどん閉鎖されています。このような状況を変えるためにも、もう一度日本の山林を甦らせるためにも、バイオマス燃料は大きな力になると思っています。

日本の林業復活の期待がかかるバイオマス事業

山林から資源をいただくわけですから、地域との連携は非常に重要です。私たちのミッションは安定した燃料供給ですので、地域の方の協力なしでは成立しません。実はこれまでの日本の林業とは海外輸入材の影響を強く受けてきた業界です。輸入材が値上がりすれば国内材も上がり、逆に下がれば国内の価格も安くなるといった状況でした。そのため多くの林業関係者は安定しない経営を強いられてきたと思います。バイオマス発電の場合ですと、継続的な発電事業を行う事で安定的に地域経済に貢献できる体制ができます。これは国内の林業復活のためにも大きな一手ではないかと考えています。また、燃料に直接関わる林業だけでなく、それにまつわる発電所、輸送インフラなども含めて日本の山林地域に住む人たちの安定的な生活にも貢献できると考えています。こうした山の再生、そして地域の活性化は私の夢のひとつでもあります。

創業2年で東南アジアへ 早かった海外進出

2008年の設立当初は国産生木だけの供給を行っていました。しかし、大規模なバイオマス発電を考えたときに、国内だけの燃料では安定供給ができないということで設立翌年の2009年には、マレーシアに現地グループ会社「HUMAN&ECO社」を設立しました。海外での事業など経験がなかったですから、当時は痛い思いもしましたが、現在ではマレーシア、インドネシア、ベトナムに事業所を展開しています。
バイオマス燃料の生産地は北米が強いのですが、日本への輸入を考えた時、輸送費、それにかかる二酸化炭素の排出を考えて東南アジアの地を選びました。当時、現地では片手間でペレット事業をやっているようなローカルな事業所ばかりで、日本に輸出できるようなクオリティを持った事業所はほとんどありませんでした。現地生産燃料の品質を上げる、世界基準の品質を保つことが海外事業での最初のミッションでした。現在では、必要なライセンスを取得し、ヨーロッパから機械を取り寄せることで、世界の基準と比べても高品質なペレット生産を行っています。

海外生産はトレーサビリティ&フェアトレードで

海外の拠点では主に木質ペレットとPKS(パーム椰子殻を使ったバイオマス燃料)の製造を行っています。燃料の安定供給は当然として、原材料に対して責任を持つ、つまりは違法性のあるバイオマス燃料を輸入しない、そのために材料のトレーサビリティを徹底しています。これは国内事業も同じですが、世のためになる事業を行っているのですから、フェアであることをいつも心がけています。

トレファクション技術で作られるブラックペレットの可能性

バイオマス発電も新しい技術が開発され、弊社でも積極的に取り入れています。例えば木質バイオマス燃料のトレファクション技術。これは材料に200℃から400℃程度の熱を加えて半炭化させる技術です。加熱することで、有機成分を分解し炭素成分の多い材料へと加工する。そうしてできたものはブラックペレットと呼ばれています。このブラックペレットは、石炭との混焼が可能で、高い燃焼効率を実現できます。また耐水性が高いので、例えば港湾での貯蔵においても石炭用の施設がそのまま使える利点があり、今最も注目されているバイオマス燃料です。弊社でも独自に技術開発をして、低コストで品質の高いブラックペレットの生産を見込んでいます。

トレファクション技術とは料理である

世界中のトレファクション施設を見てまわりましたが、材料、加工施設、運搬方法によって加工技術は千差万別です。料理のレシピのようなもので、職人技と言ってもいいでしょう。そこが面白いところでもあり、弊社でも試行錯誤しながら技術を磨いているところです。
またバイオマス燃料の未来は発電だけに限りません。素材が熱源ですので、例えば鉄、ガラスなど工業加工の熱源としての需要も見込めます。すでにアメリカなどではバイオマス燃料を発電以外の用途に用いています。

先行ベンチャーの強みがバイオマス業界にはある

2013年に再生エネルギーの固定買取制度、通称FITが施行されてから、あらゆる業界から再エネ事業に参入がありました。エネルギー事業とは巨大マーケットですから、名だたる大企業がM&Aを含めさまざまな形で事業をスタートさせました。特にPKS事業では、需要過多による資源確保の競争が発生しました。再エネ事業とは持続可能であることが最大の目的のはずです。そうした矛盾した状況に、当時私は強い違和感を持ったのを覚えています。

地道な環境保全活動が評価される業界

しかしそうした状況の中で、私たちにしかできないことも見つけることができました。私たちはベトナムで現地のアカシアを使い材料を製造していますが、その分アカシアの植林も地道に行っています。アメリカの政府組織USAIDのサスティナブル・フォレスト・マネジメント・プロジェクトとタッグを組んで植林事業を行っています。こうした機関が無制限な開発を規制し、開発に際して許認可を行っています。私たちは2008年から事業を行い、また現地の環境保全にも力を入れてきました。そうした地道な活動が評価される業界でもありますので、私たちのようなベンチャーが活躍できる土壌があります。そういった中で泥臭く地道な開発を私たちが担当することで、大手企業とうまく連携が取れると理想的な事業展開が行えると考えています。

バイオマスエネルギーは今後数年で一気に成長する分野ですので、だからこそ一つ一つ丁寧に開発することが重要だと思います。もちろんバイオマスを取り巻く環境はこれからもっと良くなっていきますので、弊社の成長スピードも上げていきますが、地に足の着いた戦略を持って持続可能な事業展開を進めていきたいと考えています。
私たちは事業そのものが地域貢献であり社会貢献です。実際に山に入り、木材に触れ、肌で感じられる喜びがあります。幼い頃に感じた山林の美しさ、自然の偉大さを忘れずに今後も事業を行っていきたいと思います。